ツナグ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年8月27日発売)
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人と付き合うためには、相手を理解することが必要である。
しかし、人は、人を理解するために時間を要する。
そこで、理解が充分に進まない段階でも付き合いが必要な相手については、不十分な理解を以て「理解した」と言う気分になることができる。その最たるものが「第一印象」である。
長く付き合いが続くと、いつのまにか第一印象とはだいぶ異なる理解に至っていることに気が付くが、理解が進むに従って、相手の印象を無意識に修正していくのも人間の「理解」の特徴だそうだ。
ここで、人は二種類に分類できる。
一方は、持って生まれた能力のままに、付き合いに応じて自動的に理解を修正する人である。
もう一方は、相手に対する理解不足を意識して、自ら理解を修正していく人である。
あるいは、単純に二分類に分けられる事柄ではなく、相手次第、状況次第かもしれないが。

さて、ツナグは、死者に一度だけ会う機会を与えてくれる使者である。
ツナグに依頼をしたいと願う人は、理解が至らないまま永遠の別れをしてしまった人への自分の理解不足を認識し、理解したいと願う人である。
積極的に人への理解を深めたいと願う人は、この小説を嬉しく読めると思う。
うぬぼれになるので、多少躊躇するのだが、僕は、最近ようやく人への接し方を「丁寧でなければならない。」と改めた。人への理解は、常に更新していかねばならない、と考え始めたところである。
このタイミングで「ツナグ」を読んだ。
物語の中で、ツナグに依頼する人物達の心の死者への理解の移り変わりが、おもしろく読めた。
現実の世界では、「なぜ」と疑問が残っても、死んでしまった人の事は解らない。そこで適当な物語を自分で作り、理解したつもりにして、お茶を濁すのだが、この物語では一度だけなら、死んだ本人に会える。
さて、僕は誰に会おうか。と考えると、生きている人の顔が沢山浮かんできた。
そうだ。生きている人にならば、直接聞くことができる。ただし、正直に話せる関係があれば。
人を大切にせねば。雑な付き合いに得るところは少ない。
死者の物語なのに、生きている人に思いを巡らせる読後感でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ファンタジー
感想投稿日 : 2014年12月26日
読了日 : 2014年12月26日
本棚登録日 : 2014年12月26日

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